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広島高等裁判所岡山支部 昭和33年(ラ)1号 決定 1958年7月24日

抗告人 奥田清一

相手方 富士金融有限公社

主文

本件競落許可決定を取り消す。

本件競落はこれを許さない。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙記載のとおりである。

よつて案ずるのに、

記録によれば、本件競落許可決定のなされた土地(以下単に本件土地という)はその登記簿面では「田」と表示され、その競売手続において本件土地を農地法の対象とする農地として取扱つていることが明らかである。ところで、凡そ土地が農地法の対象とする農地に該当するかどうかは、その土地の事実状態に基いて客観的に判定すべき事柄であつて、この場合その土地の公簿面の表示には何等拘束されるものではないから、その事実状態が農地と認められない以上は、たとえ公簿面でそれが農地と表示されていたとしても、その土地の競売手続においてはこれを農地として取扱うことは許されないものと解するのを相当とする。(なお、その土地の現況(事実状態)が農地と認められない以上は、それが農地法所定の農地の転用の制限に違反して農地を農地以外のものに転用した場合といえども、そのため同法所定の刑罰にふれることのあるのは格別、同法上これを農地に復元すべきことを義務づけた規定も存しないので、その競売手続上の取扱は右と同様に解すべきものである。)然るに、記録編綴の本件競売申立書添付の登記簿謄本二通、競落許可についての異議申立書添付の賃貸借契約書と題する書面及び証明書下付申請と題する書面と当審被審人綱島九一、同抗告本人の各陳述を綜合すれば、抗告人は昭和二十年一月頃外地より引揚げ、同年三月頃当時田であつた本件土地及びこれに隣接した同番地の二の面積七畝の土地(以下単に隣接地という)(右両者の土地は道路に沿つた南北に長い概ね楕円形の土地で、両者の境堺線はこれを東西に横断する線でその北側が本件土地、南側が隣接地となるが、その境堺線のあるべき現在地点は明確ではない)を山根辰雄より賃借して小作することになつたが、その後間もなく部落で松根油を供出することになつたため、抗告人において概ね本件土地の全部を右松根油を搾取する作業場に提供し、同地上にその作業に使用する納屋二棟(本件競売の対象となつた木造木皮ぶき平家建納屋で建坪三十一坪五合七勺と二坪二合のもの)も建設されて、爾来本件土地は田をつぶして右作業場に使用されていたが、終戦とともにこれが有姿のままで抗告人に返還され、抗告人は当分の間これをそのまま放置していたが、その後の昭和二十二年頃本件土地の空地に木造かわらぶき二階建居宅一棟(建坪階下で十四坪八合)を建築してこれに移住し、本件土地を宅地とし、隣接地を従来どおり田として使用していたが、ついで抗告人は昭和二十三年三月八日頃綱島九一に対し同人の営む製材業の用に供するため、本件土地(但し、右建物の敷地を除く空地の部分全部)及び隣接地全部を賃貸し、綱島九一はその頃隣接地上(但し、その北側寄りの部分であるが、前記のように境堺線が明確でないため、本件土地の一部にまたがるか、或は本件土地に接するに止まるかは明らかでない)にバラツク建の製材工場を建設し、隣設地の南端の部分約一畝を除くその余の空地は全部田をつぶして木材等の置場として使用し、その後抗告人において本件土地と隣接地及び前記納屋二棟の所有権を取得した後においても、右原状(但し、前記居宅一棟は本件競売で先に別個に競落処分され、すでに取壊されて現存しない)に変更なく現在に至つていることが認められるから、この事実状態よりすれば、たとえ前記のように境堺線に不明確な点のあることを考慮しても、なお少くとも本件土地は農地法の対象とする農地に該当しないものであるといわねばならないであろう。

さすれば、本件土地をその競売期日の公告に「田」として表示し、且これを農地として取扱つた本件競売手続の違法たることは明らかであり、その手続を前提としてなされた本件競落許可決定が違法として取消を免れず、その競落の許されないことも多言を要しないところである。なお、抗告人は本件競売手続において、前記綱島九一に対する賃貸借契約の存することを無視されたのは違法だと主張するが、右賃貸借契約はその登記もなく、相手方たる抵当権者に対抗できないものであるならば、これを競売手続上無視するのも正当であつて何等の違法も存しないから、右主張の理由がないことを附言する。

以上の次第によつて、本件抗告は結局理由があり、抗告費用はこれを相手方に負担させるのを相当と認め主文のように決定する。

(裁判官 高橋英明 高橋雄一 小川宜夫)

(別紙)抗告の理由

一、右相手方は抗告人所有に属する津山市大篠字繩手弐千五百九十三番の壱田五畝拾歩外壱筆の不動産を競売申立をなし岡山地方裁判所津山支部昭和三二年(ケ)第六〇号事件となり昭和三十三年一月十六日競落したこととなし津山市下横野千四百五十八番地藤森紫郎に対し最高価金六万円也競落許可決定正本の送達を受けたり

二、然るに右競買物件は耕地でなく現況は宅地にして訴外綱島九一に対し昭和二十三年三月八日契約に基き製材所工場の敷地として賃貸し爾来今日迄賃貸借契約継続中なり

三、元来債権者は競売物件は田であるからと耕地の如く謂い触らし農耕適格者たる右藤森紫郎に競売したものであるが

先づ競売手続進行に当り賃貸借関係無しと主務官において事実に反する報告をなし尚競売公告にもその旨公示したるは全く不当の競売につき却下処分相成度本申立をする次第なり

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